自筆証書遺言に関する法改正がありました 2018年 8月 2日

以前、当コラムにおいて、自筆証書遺言を含む遺言の説明をさせていただきました。

→「遺言書を作りませんか

その中で、自筆証書遺言のデメリットとして、
①遺言書の本文全てを自書する必要があるため、多数の財産を誰に相続させるか逐一記載するのはなかなか大変です、
②遺言書が発見されない危険性、偽造・変造される危険性があります、

などの点をあげた上で、これらの点については法改正の議論が進んでいるとご説明しました。

そして、平成30年7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)と法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成30年法律第73号)が成立し、上記のデメリットとされていた部分について、法改正がなされました。

今回は、その内容を簡単に説明したいと思います。

1 自筆証書遺言の方式緩和

(1)現在の制度

上にも書きましたが、現在の制度の下では、自筆証書遺言は全文を自書する必要があります。遺言の内容が「遺産の全てを○○に相続させる」というような内容であればよいのですが、財産毎に誰に相続させるか・遺贈するかなどを書いていく場合には、全文の自書は相当な負担になります。特に財産が多数ある場合には負担が大きいです。

(2)改正の内容

これに対し、今回の改正後の制度では、自筆証書遺言に相続財産の目録をつける場合には、その目録は自書で無くてもよいことになりました(改正後民法968条2項)。
したがって、例えば、遺言書の内容を「別紙目録1記載の不動産を○○に、別紙目録2の不動産を▲▲に相続させる」(この部分は自書する)などとした上で、パソコンで作成した別紙目録を添付するということが可能になりました。

なお、偽造防止のため、パソコンなどで作成した目録には、遺言者が署名押印をする必要があります。

2 法務局における自筆証書遺言の保管

(1)現在の制度

現在の制度の下では、自筆証書遺言については公的な保管場所がなく、多くの場合は自宅で保管されていました。
そのため、遺言者が亡くなった段階で遺言書が発見されず、せっかく作成した遺言書の内容を全く反映しない形で遺産分割協議がなされたり、遺産分割後に初めて遺言書が見つかったことによってかえって紛争の火種となったりすることがありました。あるいは、一部の相続人により遺言書を隠されたり、改ざんされたりするおそれもありました。

(2)新制度の内容

こうした状況を踏まえ、この度、法務局で自筆証書遺言を保管するという制度が創設されました。
これは、遺言者が作成した自筆証書遺言を法務局に持参して申請することにより、法務局で原本と画像データを保管してもらい、死亡後、相続人が遺言書の写しの請求・閲覧をすることができるという制度です。
この制度を利用することで、遺言書の紛失や隠匿などが防止でき、相続人としても遺言書の存在を把握することが容易になります。
また、自筆証書遺言は、相続開始後、家庭裁判所で検認という手続をとる必要がありますが、法務局での保管制度を利用した場合には、検認は不要となり、相続人の一人から遺言書の写しの交付・閲覧がされた時点で、他の相続人に対して、遺言書が保管されていることの通知が行くようになっています。

3 改正後の制度、新制度がいつから利用できるか

遺言書の方式緩和については、平成31年1月13日から利用することができます。
法務局における自筆証書遺言の保管に関しては、公布の日(平成30年7月13日)から2年以内に施行されることとされています。

4 改正後の制度、新制度の限界

以上のとおり、改正と新制度の創設があり、自筆証書遺言が現状よりもより使いやすいものになります。しかしながら、これらの制度を利用したとしても、遺言書の内容自体が適切なものでないと、結局想定していたように財産を引き継げなかったり、かえって紛争のもととなったりすることがあり得ます。

そうした事態を避けるためにも、遺言書を作成する際には、専門家にご相談されることをお勧めします。
遺言書の作成をご検討されている方は、是非一度、名駅総合法律事務所にご相談ください。