刑事事件でのいわゆる司法取引について 2018年 6月 12日

平成30年6月1日施行の改正刑事訴訟法で,刑事手続の中に,証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度,いわゆる「司法取引」の制度が導入されました(政府としての略称は「合意制度」です。)。
司法取引は企業法務にも関係する点がありますので,司法取引制度の概略を説明します。

(1)導入の経緯

組織的な犯罪等では,首謀者の関与状況などを解明するためには,組織構成員から必要な情報を取調べの中で検察官が獲得する必要があるため,組織構成員から情報を得られやすくなるように導入されます。

(2)制度概要

いわゆる司法取引制度は,特定の犯罪について,検察官と被疑者・被告人とが,弁護人(弁護士)の同意がある場合に,被疑者・被告人が他人の刑事事件について証拠収集等への協力をし,検察官が協力行為を考慮して,被疑者・被告人本人の事件につき不起訴処分や特定の求刑等(主には求刑を減らすこと)をすることを内容とする合意をするものです。

従って,弁護人(弁護士)がいなければ,この司法取引制度は使えません。

(3)対象犯罪

  1. 租税に関する法律(脱税など)
  2. 独占禁止法違反(談合など)
  3. 金融商品取引法違反,商品先物取引法違反,出資法違反
  4. 贈収賄,特別贈収賄
  5. 特別背任
  6. 貸金業法違反
  7. 銀行法違反,保険業法違反
  8. 農業協同組合法違反,消費生活協同組合法違反,水産業協同組合法違反,中小企業等協同組合法違反,信用金庫法違反,労働金庫法違反
  9. 不正競争防止法違反
  10. 特許法違反等の知的財産関係法違反
  11. 犯罪収益移転防止法違反
  12. 資金決済法違反
  13. 詐欺

などで,刑事訴訟法と政令で定められた犯罪類型(「特定犯罪」)です。

(4)被疑者・被告人による協力行為

合意の内容にできるのは,他人の刑事事件について,

  1. 検察官や警察官の取調べに際して真実の供述をすること
  2. 証人として尋問を受ける場合において真実の供述をすること
  3. 検察官,警察官による証拠の収集に関し,証拠の提出等の必要な協力をすること

です。

(5)検察官による処分の軽減など

検察官は,

  1. 公訴を提起しない(不起訴)
  2. 論告求刑で,特定の刑を科すべきと意見を述べること
  3. 略式命令の請求をすること(略式罰金)

などの処分の軽減等を合意できます。ただし,釈放などの身体拘束に関することは合意できないと考えられます。

(6)三者協議

合意のためには,検察官,被疑者・被告人本人,弁護人の三者での協議が必要です。
そして,検察官は,合意に先立ち,弁護人同席のもと,被疑者・被告人本人から他人の刑事事件について供述を求め,これを聴取することができます。

(7)合意の成立

検察官は,三者協議の結果を踏まえ,被疑者・被告人の協力行為により得られる証拠の重要性,関係する犯罪の軽重及び情状などを考慮して,必要と認めるときは,弁護人の同意のもとで,検察官,被疑者・被告人本人,弁護人の三者連署での合意書を作成し,合意が成立します。

(8)合意からの離脱

合意の当事者が合意に違反したときは,検察官や被疑者・被告人は合意から離脱できます。

(9)企業法務への影響

司法取引が導入され,贈収賄事件,脱税,粉飾決算等の犯罪に関与した社員が,自らの刑事責任を軽減するために,上司や同僚を巻き込むことを考えるケースも考えられます。

また,談合事件等の複数社が関与する犯罪については,ある企業が他の企業の特定犯罪への関与を積極的に捜査機関に述べるケースも増加する可能性があります。
企業としては,法人としての刑事責任を最小化するために,自らの役職員の犯罪行為への加担を速やかに発見し,弁護士の助言のもと,司法取引も含めた選択肢のうち何を選択すべきかを冷静に検討する必要があります。

司法取引制度には,弁護人(弁護士)の存在が不可欠のものとされています。
また,捜査機関への対応をしていくには,弁護士の助言や関与が不可欠です。

司法取引を含め,企業に関わる法律でお困りの点がありましたら,名古屋駅前の名駅総合法律事務所に一度ご相談ください。