弁護士と中小企業診断士の協業 2018年 5月 31日

1,はじめに

去年5月の記事では,中小企業診断士の仕事や中小企業診断士としての活動について触れました。それから1年経ち,中小企業診断士としての活動の幅が大きく広がりました,と報告できると良かったのですが,相変わらず,いくつかの研究会に出席し,先輩診断士のご報告を拝聴したり,実際のコンサルティングに同行して意見を述べたり,まれに企業再生や事業承継に関連する法務などのプレゼンをしたりするという活動にとどまっています。

中小企業診断士としてはまだまだこれからといったところですが,その業務内容に対する理解は多少なりとも深められたように思います。そこで,今回は,弁護士と中小企業診断士が協業できる可能性がある「特定調停」の手続きについて説明いたします。

2,特定調停手続きについて

(1)制度の概要

特定調停とは,債務の返済が困難な債務者の経済的再生を目的として,その債務者が負担する金銭債務等に関する利害の調整を目的とする民事調停です(特定調停法1条)。

中小企業金融円滑化法が終了した2012年以降,日本弁護士連合会が,中小企業の再生を図るプラットフォームとして特定調停を活用するため,最高裁判所や中小企業庁などの関係団体との調整作業を進めました。その結果,2013年12月,中小企業の事業再生に特定調停を用いる運用(以下,「特定調停スキーム」といいます。)が始まりました。

(2)手続きの目的と流れ

特定調停スキームは,中小企業の負う債務のうち,主に金融機関に対する債務の圧縮を目的としたものであり,事前にすべての金融機関から債務免除の同意を取り付けたうえで調停を申し立てることが予定されています。すべての金融機関の同意を取り付けたうえ,調停まで申し立てるのは,免除した債権を金融機関が無税償却するには調停が成立している必要があるためです。

おおまかな流れは以下の通りです。

①金融機関への方針説明・リスケ要請
  ↓
②DD(財務・事業査定),経営改善計画(案)策定
  ↓
③金融機関との意見交換,経営改善計画修正
  ↓
④全金融機関との合意形成
  ↓
⑤調停申立
  ↓
⑥調停成立or民事調停法17条の調停に代わる決定

(3)弁護士と中小企業診断士の協業

特定調停スキームを利用することで,将来性のある中小企業の抜本再生を実現できる可能性があります。
そして,弁護士であれば,代理人として調停を申し立て,調停手続きを進められます。しかしながら,必ずしも経営・財務に関する十分な知識を備えているとは限りませんので,調停申立て前に,合理性の認められる経営改善計画を示し,金融機関の合意形成をするには,別途,その道の専門家の協力が必要になることもあり得ます。

この点に関し,中小企業診断士は,中小企業金融円滑化法に基づき,経営改善計画の作成などを支援してきた経緯があります。その延長線上の業務として,特定調停スキームに用いる経営改善計画の作成支援などを弁護士と協力して進めることにより,適切かつ効率的に手続きを進められる可能性があると考えます。

(4)認定支援機関の活用

なお,特定調停スキームに関しては,計画策定支援事業の枠組みを利用し,計画策定支援にかかる費用(計画の策定費用,事業DD費用,財務DD費用,モニタリング費用等)のうち3分の2を上限として(最大200万円),費用の支援を受けることができます。

3,最後に

今回の記事では,特定調停スキームの利用に関し,弁護士と中小企業診断士の協業の可能性があることについて述べました。このスキームに限らず,企業再生や事業承継の分野では,弁護士と中小企業診断士の資格を併用することで効果的な中小企業支援を実現できる場面が多々ありますので,中小企業の法律問題に関して,お悩みやお困りごとがありましたら弁護士への相談もご検討ください。

以 上

<div style=”font-size:90%;”>【参考文献】
『中小企業再生のための特定調停手続の新運用の実務』(2015年,日本弁護士連合会・日弁連中小企業法律支援センター編)</div>