交通事故について弁護士に相談すると 2018年 5月 12日

1 交通事故 相談から各種手続きの流れ

交通事故の相手方に損害賠償請求をお考えの際、弁護士に依頼した場合にどのような流れで相手方に損害賠償請求を行っていくかについて、ご説明します。

なお、加入している任意保険に弁護士費用特約が付帯している場合、相談料、着手金及び報酬金等の弁護士費用は保険から支払われます。相談の前に保険会社に弁護士費用特約の有無をご確認いただくと良いでしょう。

(1) 相談

・相談予約
当事務所では、お電話で面談相談の予約をいただき、事務所での面談相談を行います。入院中などの場合、別途費用をいただき、出張相談も可能です。

・相談料
弁護士費用特約を利用した場合、相談料は、基本的に30分5400円とさせていただいています。通常、今後の見通し等をご説明する限りでは相談自体は1時間程度で終わることが多いように思います。

・お持ちいただきたい資料
ご相談の際には、交通事故証明書や、相手方や保険会社とのやりとりについての書類、損害状況のわかる見積書をお持ちいただけると助かります。また、委任契約書や委任状を作成することもあるので、印鑑(認め印可)をお持ちいただいた方が良いでしょう。

(2) 受任

相談で、相手方らに請求できる見通しが立ち、相手方への損害賠償請求を依頼いただける場合には、委任契約書や委任状を作成します。

ここで、弁護士費用についてご説明します。弁護士費用は、着手金と報酬金からなり、その他に必要経費として実費をお預かりします。着手金や報酬金は、契約書締結の段階で定め、請求する金額に応じて、請求金額の「○%」を着手金とし、回収できた金額の「○%」を報酬とするとの定め方をすることが多いです。

着手金・・・依頼いただく際にお支払いいただくお金。
報酬金・・・いわゆる成功報酬。事件終了後にいただくお金。
実費 ・・・印紙代、通信費、交通費等の実費に充てるために数万円程度をお預かりします。なお、この実費は、事件終了後精算し、残金はお返しします。

委任契約書や委任状を作成をもって、正式に交通事故事件を受任したことになり、相手方に弁護士が受任したことを知らせる受任通知を発送します。

(3) 各手続き(任意の交渉から訴訟まで)

・示談交渉
相手方とまだ損害賠償請求等についてほとんど話し合いがなされていない場合、受任通知を送って、相手方や保険会社と、示談交渉を行います。双方の言い分を出し合って、お互いに納得できる場合には、交渉のみで示談ができることもあります。

示談ができる場合には、示談書や和解書を作成します。

・被害者請求・異議申立
交通事故により傷害を負った場合、示談や和解の前に、後遺障害がないかの認定を第三者的な立場の自賠責調査事務所から受ける必要があります。相手方の任意保険会社も後遺障害の認定手続きの仲介を行ってくれますし(事前認定といいます)、一方で、被害者自身が後遺障害の認定を直接、自賠責調査事務所に対して申請することもできます(被害者請求といいます)。事前認定の場合、資料収集の手間は省けますが、どのような資料を提出するかの判断を相手方に任せてしまうことになるので、被害者請求を行うほうがよいこともあります。

なお、調査事務所の決定に対しては、異議申立を行うことができます。

・訴訟
交渉で合意に到らない場合、最終的には訴訟を提起することになります。
事故によって発生した損害かという因果関係、どちらにどのくらい非があるかという過失割合、先ほど述べた後遺障害の評価で見解が対立する場合には、訴訟が長期化する可能性もあります。

2 損害(物損と人損)

交通事故で発生する損害は、大きく分けて自動車の損傷などの物損と、ケガの治療費や後遺障害慰謝料など体の傷害(ケガ)を基礎とする人損に分けられます。

(1) 物損

自動車の損傷についての賠償額は、修理費用が原則です。ただし、修理見積額が、車両の時価と売却代金の差額に諸費用を加えたものを上回る場合には、経済的に修理不能(経済全損)とされ、買い換え差額と諸費用が賠償額とされます。
なお、同種の車両の時価は、オートガイド社が毎月発行するオートガイド自動車価格月報(レッドブック)等を参考に算定されます。
また、修理の費用は、事故との因果関係が認められる相当な修理費用に限られ、全塗装は認められにくく部分塗装は認められやすい傾向にあります。同様に、板金修理が可能な場合は、パネル交換は認められにくい傾向にあります。

・いわゆる評価損(事故前の車両価格と修理後の車両価格の差)は、一般的に認められるわけではありません。高級車の新車に近いものの場合には、修理費の1、2割が認められることがあります。

・代車料は、日常的に必要な場合は認められる傾向にあります。自動車通勤等の場合は比較的認められやすいといえます。しかし、判例では、従前マイカー通勤をしていてもも、公共交通機関など代替交通手段がある場合に代車を認めない判例もあります。

(2) 人損(傷害と後遺症)

ア 症状固定と後遺症
事故による傷害を受けて、治療を続けてもこれ以上治癒しない状態を症状固定といいます。症状固定となった場合には、以後の治療費は賠償の対象とはなりません。

一方で、症状固定となった状態が、自賠責調査事務所によって後遺障害と認定される場合には、後遺障害等級によって慰謝料が支払われます。この後遺障害等級の認定を受ける手続きを被害者側で行うのが被害者請求、相手方任意保険会社が行うのが事前認定ということは先に述べたとおりです。

イ 損害の種類
・治療費
事故によって生じたケガの治療のための治療費は、損害賠償の対象であり、相手方が任意保険に加入している場合には相手方保険会社が立替え支払を行います。

しかし、むち打ち等の場合には3ヶ月から6ヶ月くらいで、相手方任意保険会社が治療打ち切りを打診することもあります(最近ではもっと短期間の場合もあります)。その場合には、医師に治療の目処を記載した診断書を作成してもらったり、打ち切られても治療を受けたい場合には健康保険をつかって一時立て替えをする必要があります。一時的に立て替えた治療費は、症状固定後に慰謝料などとあわせて請求することができますが、不相当に長期にわたる治療費等は支払われないこともあります。立替払をしてでも治療を継続けるべきか、症状固定かは、医師と相談をして決める必要があります。

なお、請求時に必要ですので立替払をした治療費の領収書は大切に保険しておいて下さい。

・休業損害
ケガによって、働けない場合、休業損害も損害賠償の対象です。
1日あたりの基礎収入(直前3ヶ月平均)に日数をかけて計算します。一方で、最低限の保障を趣旨とする自賠責保険の基準では休業損害は1日5700円とされており、保険会社によってはこの金額を基礎に休業損害を提示してくることもありますが、この金額以上の休業補償の金額を請求することができます。
なお、有給を取得し、実際には休業していない日分も休業損害は請求できます。また、実際には稼働していない専業主婦でも、全年齢平均の賃金額を基礎に休業損害を請求することができます。

・逸失利益
後遺障害による、労働能力の低下の程度、収入の変化、将来の昇進・転職・失業等の不利益の可能性、日常生活上の不便等を考慮して算定されます。この算定にも、後遺障害等級が何級と認定されるかが重要な意味を持ちます。

・慰謝料(傷害)
入院や通院についても慰謝料が支払われます。入院や通院の期間に比例して増えるのが原則ですが、必要性のない治療が続いた場合は、不相当な部分は慰謝料の算定の基礎とされないことがあります。なお、接骨院にしか通っていない場合には、慰謝料算定の基礎となる通院期間として、実際の通院期間の全てがを認められないこともありますので、接骨院などと並行して定期的に整形外科などの病院に通うことが重要です。

・慰謝料(後遺症)
後遺症等級によって、慰謝料が異なります。何級と認定されるかが賠償額が大きく異なりますので、重篤な後遺障害が残る場合には、相手方保険会社に資料収集を任せる事前認定ではなく,主体的に資料収集が可能な被害者請求をしたほうがよいこともあります。

3 弁護士に依頼するメリット

交通事故について、弁護士に依頼するメリットについて説明します。

(1) 人損に関しては賠償額が増えることが多い

損害賠償の際に、考慮される基準は3つあります。

3つの基準とは、自賠責保険の基準、任意保険会社が内部で定めている基準、裁判で認められる基準です。

自賠責保険の基準は、強制加入により最低限の保障をするとの趣旨から導かれた基準にすぎません。最低限の保障なので、一番低額な基準です。

また、任意保険会社の基準も、各保険会社が利益を出すために内部で定めた基準にすぎません。自賠責基準と裁判基準の中間くらいの基準です。

被害者が実際にどのような損害を負っているかという、被害の損害に着目した基準は、裁判を起こした際に認められる基準のみです。
この3つの基準の内、被害者本人が交渉する際には、自賠責基準や保険会社基準での和解を提示されてしまいます。一方で、任意保険会社も、弁護士が代理人になった場合には、訴訟をされるリスクを考え、裁判所の基準に近い水準での和解を提案してきます。賠償額が増額されるので、この点は弁護士に依頼するメリットといえるでしょう。

特に、後遺障害等級の認定については、高い等級の後遺障害が疑われる場合には、弁護士が早期に関与して、適切な診断書を書いてもらうなどして、高い認定を受けるメリットは大きいといえます。

(2) 煩わしい手続き、精神的な負担からの開放

手続きの進め方の知識や、過失割合等の法的な知識がない状況で、相手方と効果的に交渉し相当な水準での和解をすることは事実上極めて困難であり、相当の手間と時間をかける必要があります。また、ケガの治療を継続しながら、交渉等の手続きを進めることは精神的にも大きな負担となります。

弁護士に依頼することにより、煩わしい手続きや精神的な負担から解放され、治療に専念できるというのも大きなメリットです。

(3) デメリット

一方で、弁護士に依頼するデメリットもあります。まずは、弁護士費用がかかるという点です。当事務所の場合、原則として、次のような弁護士費用をいただくことになります。

経済的利益が300万円以下の場合
着手金8%、成功報酬16%
300万円を超え3000万円以下の場合
着手金5%+9万円、成功報酬10%+18万円
3000万円を超える場合
着手金3%+69万円、成功報酬6%+138万円

しかし、自動車保険に弁護士費用特約が付帯している場合には、弁護士費用は保険会社が支払ってくれるので、デメリットはほぼないといえるでしょう。