1,はじめに
今回は,交通事故の際の過失相殺に関する記事を掲載します。
2,過失相殺とは
民法722条2項は,「被害者に過失があったときは,裁判所は,これを考慮して,損害賠償の額を定める」として,過失相殺を定めています。損害の公平な分担という趣旨から,事故の原因や損害の発生・拡大について過失のある被害者の損害賠償額を減額することが認められています。
実務上は,実際に起こった事故の態様を,想定される事故類型ごとに定められている基準(東京地裁民事交通訴訟研究会編「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(別冊判例タイムズ38号)」など)に当てはめて過失割合を決め,過失相殺を行っています。
3,過失相殺の立証方法
そのため,過失相殺の有無や過失割合の程度が問題になる件では,事故態様の立証が重要になります。
事故態様の立証によく用いられる資料としては,実況見分調書があります。実況見分調書は,事故の連絡を受けて駆け付けた警察が,現場の状況の確認や,当事者からの事情聴取を行って作成する書面です。事故後の損害賠償請求の場面で非常に重要な資料になりますので,交通事故が発生した場合には,必ず警察に連絡し,事故の状況を詳しく説明する必要があると言えます。
また,最近では,事故態様を立証する資料として,ドライブレコーダーで撮影された動画を用いることも増えました。客観的な資料であり,事故時の状況がはっきりとわかりますので,万一,事故にあってしまった場合には,ドライブレコーダーで撮影された動画が消えてしまわないように保全しておくことも重要です。
4,被害者側の過失
なお,過失相殺の場面での過失には,被害者本人の過失だけでなく,「被害者側の過失」も含まれると考えられています。
ここでいう「被害者側の過失」とは,被害者の父母や従業員など「被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失」(最高裁昭和42年6月27日判決民集21巻6号1507頁)のことを言います。
具体的には,父親が運転しその子が同乗している車が事故にあった場合,運転していた父親の過失が「被害者側の過失」としてその子の過失として扱われる可能性があるということになります。
5,最後に
過失割合に関しては,重大な事故(=賠償額が多額となる事故)であるほど,賠償額を減額する割合の重要性が大きくなります。適正な賠償を受けられるようにするため,交渉時に相手方の主張する過失割合が正しいか否か疑問に思われたときは,専門家へ相談することもご一考ください。