1,はじめに
前回の交通事故の記事(「交通事故の加害者に請求できる損害」)
では,交通事故の被害者が加害者に請求できる損害一般についてご説明しましたが,
今回は,消極損害と呼ばれる損害のうち,休業損害をテーマに掘り下げてお話します。
2,休業損害
休業損害は,交通事故により傷害を負ったことで休業を余儀なくされた場合に,
交通事故による休業がなければ得ることができたはずの収入・利益を損害とするものです。
つまり,交通事故によりケガをして入院や通院をするために仕事を休んだことが原因で減少した収入や利益を損害とします。
自賠責基準と裁判所基準による休業損害の計算方法は以下のとおりです。
1日あたりの基礎収入が5700円を超える場合は,自賠責基準ではなく裁判所基準で休業損害を算定した方が賠償額は高額となります。
自賠責基準の場合 5700円×休業日数
裁判所基準の場合 1日あたりの基礎収入×休業日数
1日当たりの基礎収入は,給与所得者の場合,事故前3か月の給料の合計額や,
泉徴収票に記載された年収をもとに算出するのが一般的です。
なお,現実の収入減がなくとも,有給休暇を使用した場合は休業損害として認められます。
上記の計算式から,裁判所基準で休業損害を請求する場合は,1日あたりの基礎収入がいくらになるかが重要になります。
給与所得者の場合は,勤務先にて休業損害証明書が作成されることがほとんどで,
休業損害証明書によって収入とその減少の立証ができますので,基礎収入の算定が問題になることはあまりありませんが,
以下に挙げる事業所得者・自営業者,会社役員,家事従事者,無職者の場合には,
そもそも交通事故が原因で収入や利益の減少が発生したといえるか,
休業損害が発生しているとしてその基礎収入をどう捉えるかなどについて問題になることがあります。
3,休業損害が問題となりうる類型
(1)事業所得者・自営業者
基本的には,所得税確定申告書を参照し,
得られたはずの売上額からこれを得るために必要としたはずの原価と経費を差し引いて基礎収入を算定しますが,
過少申告の場合,赤字申告の場合,無申告の場合には基礎収入の立証が難しくなります。
また,事業所得に,交通事故の被害者ではない,
家族や従業員の働きによる利益などが含まれている場合も基礎収入の算定が困難となります。
(2)会社役員
個人会社であり,実質的に個人事業者と変わらないと評価できる場合は,(1)事業所得者・自営業者と同様になります。
それ以外の場合,会社役員の報酬には,役員としての稼働に支払われる「労働対価部分」と経営結果による「利益配当部分」があり,
このうち労働対価部分のみ休業損害として認められると考えられています。
(東京地裁昭和61年5月27日判時1204号115頁)
もっとも,「労働対価部分」と「利益配当部分」を区別する決まった方法はなく,
実際の事案で両者を区別して休業損害を請求するのは非常に難しくなります。
(3)家事従事者
家事従事者が休養した場合にも休業損害が発生するとされています。
(最判昭和50年7月8日交民8巻4号905頁)
その場合の基礎収入は,賃金センサスの女子平均賃金から算出します。
ただし,(男性が家事従事者の場合など)家事に従事していたことの立証が難しいケースがあります。
(4)無職者
原則として休業損害は認められませんが,事故発生時において具体的な就職先が決まっていて,
事故により予定よりも就業時期が遅れた場合などは例外的に休業損害の請求が認められることがあります。
以上から,休業損害に関しては,給与所得者の場合で自賠責基準での休業損害を示談案として提示された場合,
事業所得者・自営業者,会社役員,家事従事者,無職者などの場合で休業損害が認定されなかったり,
著しく少額の休業損害しか示談案として提示されなかったりした場合などには,弁護士に相談する意味があるといえます。
休業損害に関してお悩みの際は,名駅総合法律事務所にご相談いただけますと幸いです。